御岳山に恋して(2008年07月01日)

伊藤 恵梨 (イトウ エリ)
総合政策学部国際政策文化学科
第51回「御岳山に生きる」プロデューサー

 東京の片隅に御岳山(みたけさん)という山がある。都心から向かえば往復六時間もかかる御岳山は、年間平均気温が青森と変わらないため「東京の避暑地」として親しまれている。私は、二〇〇七年十月にこの山と出会い、それ以来、釘付けになった。それは多分、今までで一番大変な恋だった。
御岳山では現在、三九世帯、約一五〇人が大自然と伝統文化とともに生活を営んでいる。そして、その生活は便利な現代生活をしている私たちには、少々理解しがたい。夜六時三〇分から朝七時三〇分までの間は、山への交通手段であるケーブルカーも稼動しておらず「陸の孤島」になってしまう。ましてや、山の上には二四時間営業しているコンビニエンスストアなども見当たらない。
「東京の片隅でこんな暮らしが…」と驚いて、青梅市役所に話を聞きに行くところから始まり、今では住民の方とジョークを交わすほどの仲になった。友人が乗る電車とは反対方向の電車に乗り、ひとりで黙々と高層ビルではなく木々が生い茂る山間部へ向かう生活にもずいぶん慣れた。
そして、取材中にある住民の方から、
「ここで暮らすのは不便だけど、それが楽しいんだ」
という言葉を聞いたとき、私はこの言葉を世界中の人に届けたいと思った。
それから、私の猛烈アタックは始まった。この山の暮らしを伝えたい、という一心でドキュメンタリーを作り始めてしまったのだ。時間さえあれば山の暮らしに入り込み、二〇歳最初のクリスマスも山で行事があると聞きつければ、ゼミ生まで巻き込んで山に泊り込みで撮影…ということを繰り返すうちに、気がつけば山の一日を追ったドキュメンタリーが出来上がっていた。その名は『御岳山に生きる』とした。
そして完成後、第五一回「多摩探検隊」として、多摩地域にある五局のケーブルテレビで放送された。
そのことをお世話になった御岳山の方々に報告しに行くと、
「今どきこんな山にめずらしいわ。あんたも好きだねー」。
山に行くと、いつも温かく迎えてくれる御師(信仰を広める神職で、御岳山に暮らす3人に1人が御師)のおじさんに、いつものようにからかわれた。しかしこの言葉は、最高の褒め言葉だと思った。
「でも、あれだけ何度も来て撮ったのに、わずか10分にまとめるとは、きっと大変なことだっただろうね」
と、ポツリと言われたねぎらいの言葉に、私は涙をこらえるのがやっとだった。
自宅がある高幡不動から、往復3030円かかる御岳山に通うこと10回。そのうち2回は御岳山の宿坊に泊りがけで取材をした。交通費は高くついたが、それ以上の価値あるものを、私はこの御岳山で手に入れたと思う。

投稿者 webmaster : 2008年07月01日 00:00|

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