多摩の宝箱制作秘話~ホッとするようなVTRを作りたい~(2007年12月02日)

川又 一馬 (カワマタ カズマ)
文学部人文社会学科社会情報学専攻
第44回「多摩の宝箱」ディレクター

「十二月放送分のショートVTRを作ってほしい」。始まりは多摩探検隊制作プロデューサーから送られてきた一通のメールだった。たかだか二分ぐらいのVTRだし、まあ何とかなるだろう、という軽い気持ちでこの依頼を引き受けた。二〇〇七年十月のことだった。

引き受けはしたものの、どんなVTRを作ったらいいのか、私は思い悩んでしまった。そこで、まず過去のショートVTRを参考にしようと思い立った。私のVTR制作は、多摩探検隊のサイトで配信されている、ショートVTR二二本全てを見ることから始まった。
どんなVTRがいいのだろう。大学のコンピュータルームでパソコンの画面を前に悩んだ。普段は言えない感謝の気持ちをカメラの前で語ってもらった「ありがとう」。思わず、頑張れと応援したくなる「夢~あなたの夢はなんですか?~」。出てくる人たちの笑顔が印象的な「心に残った言葉」……。数多くあるショートVTRの中でも、私の目に留まったものは、「多摩の宝箱~あなたの大切なものは何ですか~」という二〇〇七年の二月に放送されたVTRだった。道行く人に「あなたの大切なもの」を聞いていく。ただそれだけのVTRなのに、そこに出演している人たちから元気をもらえるような、ほのぼのとした暖かさが画面から伝わってきた。コンピュータルームで、しかめ面をしながら何本も過去のショートVTRを見ていた私は、このVTRを見た瞬間、思わず頬が緩くなるのを感じた。見ている人をホッとした気持ちにさせる、これこそがショートVTRの原点ではないだろうか。私もこんなVTRを作りたい、と思った。

しかし、実際に取材に出てみると、そう簡単にはいかなかった。「あなたの大切なものは何ですか」とマイクを向けても「家族」や「友達」など、ありきたりで表面的な回答しか返ってこない。もっと深く、面白い回答を期待していた私にとって、一回目の撮影の結果は到底満足できるものではなかった。
何がいけなかったのだろう。撮影が終わって大学に帰り、一人反省をした。そして、最初の撮影の一週間後に行った追撮では、とにかくインタビュー相手の話を「聞く」ということに力を注いだ。話を「聞く」ことで、その人の大切なものについて、それがなぜ大切なのか、その本質に踏み込めるような気がしたからだ。
例えば、「私の大切なものは家族です」と話してくれた人に対しては、「なぜ家族が大切なのか」といったように、「なぜ」の部分を中心的に質問し、その答えに隠されている取材相手の真意を汲み取るよう努力した。
 その甲斐あってか、二回目の撮影は順調に進んだ。インタビュー相手からは、「今年、単身赴任三年目で、家族と離れていると余計に家族の大切を実感します」。「結婚して五〇年、酸いも甘いも一緒に過ごし、苦労してきたから女房が大切です」といったような、バラエティーに富んだ、深みのある回答を得ることができた。
 そんな中に、「平和が大切です」と答えてくれたひとりの女性がいた。彼女はその腕に孫の男の子を抱いていた。
 インタビューを終えて、おばあちゃんとお孫さんの2人が歩いていく様子を後ろから撮っていたときのこと、突然、男の子がつまずいて転んでしまった。おばあちゃんはあえて転んだ孫に手を貸そうとせず、男の子が自分で起き上がるのをしっかりと待っていた。そこには、先程のインタビューで「平和が大切。孫が生まれてからさらにその気持ちが強くなった」と語ってくれたおばあちゃんの、孫に対する優しさがにじみ出ているような気がした。そして私は、その瞬間、ショートVTRでメッセージを伝えるということはこういうことなのだと悟った。言葉では伝えることの出来ない、映像だから表現できるメッセージがあるのではないかと思えた。それまで、私は言葉の内容にこだわり過ぎていたのかもしれない。この、男の子が転ぶシーンにはそんな「映像だから表現できるメッセージ」が込められているような気がした。

 このVTRでひとりの人が画面に映る時間は、ほんの数秒にすぎない。でも撮影をしていると、その数秒間のひとことの中から、その人が歩いてきた人生の一端が垣間見えるような気がするから不思議だ。
そんな人たちのたくさんのメッセージが集まった二分間のVTRという箱の中には、たくさんの宝物が詰まっているのだ。(1712字)

投稿者 webmaster : 2007年12月02日 00:00|

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