伝えるということ(2006年04月02日)

森田 智子 (モリタ トモコ)
総合政策学部国際政策文化学科
第24回「東京こけし物語」ディレクター

「自分は何を一番伝えたいのか?」たった一本、5分のVTRを制作するに当たって、何度も何度もぶち当たった疑問だ。自分の中にある思いを言葉に置き換えて人に伝える作業は、日々の生活の中でごく普通に行っているはずだった。しかし自分の感動を人と共有するために映像や言葉を使って表現するのは、日ごろ行っていることの延長であるにせよ、私にとってはとてつもなく難しかった。

私が今回初めてディレクターを務めたのは、多摩探検隊4月放送分の「東京こけし物語」だ。東京こけしという一風変わったオリジナルのこけしを作るご夫婦のお話だ。職人であるご主人が木材をこけしの形へと削り出し、奥さんがその上に季節の花々を描き上げる。苦難を共に経験してきた二人は「形ができても絵がかけなければ東京こけしは成り立たない。どっちかが欠けたらもう作れない。だから、うちは二人で一人前なんだよ」と語る。とにかく素敵なのだ。このご夫婦のお話を多くの人に伝えたい。そう思ってこの作品を作ることに決めた。

取材の交渉から撮影、そして編集と何もかもが初めての体験で、楽しくもあり常に不安でもあった。作品を完成させるのに一番苦労したのはやはり編集作業だった。編集では作品と向き合うのはもちろんのこと、自分とも向き合わなければならなかった。編集中に襲ってくる自己嫌悪と後悔。撮影時に気づかなかったミスや使えない映像をたくさん撮影してきたことで編集作業は難航し、自分の無能さにため息が出る。また、自分はどうして感動したのか、どうしてこのご夫婦を素敵だと思ったのか、といった自分の中にある漠然とした感情を表現するには、疑問がなくなるまでとことん自分と向き合わなければならなかった。言葉にならない思いばかりが駆け巡り、焦りと苛立ちだけが空回りする日々が続いた。ただ、東京こけしに秘められたご夫婦の物語を、自分の力量不足でつまらない作品に仕上げることだけはしたくなかった。自分が感じた感動を人にも味わってもらいたい。この思いは強く、そのことだけが私を毎日パソコンに向かわせた。
何ヶ月もの間、閉門時間の11時まで学校のパソコンにかじりつく日々が続き、「幸せの輪をつけた東京こけしは、共に歩んできたご夫婦の、思いをつなぐかけがえのない絆となっています。」というメッセージと共に東京こけし物語はようやく完成した。完成した作品を見た人から、「夫婦の絆が感じられた」「こんな夫婦になりたい」といったコメントをいただいたときには、自分の伝えたかったことが多くの人に伝わったと実感でき、とても嬉しかった。

普段の生活の中でも、自分の思いを言葉に置き換えて思いをありのまま人に伝えるのは、とても大切でとても難しい。それが映像であればなおさらだ。しかし、一筋縄ではいかない大変なことだからこそ映像制作は奥が深く、おもしろくて仕方がない。
完成したテープをご夫婦に届けたときに、そのテープを奥さんが大切そうに胸に抱えているのを横目に、まだまだ多摩探検隊はやめられないな、と実感した。

投稿者 webmaster : 2006年04月02日 22:17|

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