うこっけいの卵と作り手の魂(2006年01月01日)

Eriko Hirota廣田 衣里子 (ヒロタ エリコ)
法学部政治学科
第21回番組プロデューサー

11月のある朝、私は眠い目をこすりながら原付バイクで“現場”を目指していた。その現場は、とある民家。そのお宅には高級鶏として知られる烏骨鶏(うこっけい)がいる。私たち多摩探検隊制作チームは、毎朝その烏骨鶏が産む卵を待ち続けていた。
21回を迎える多摩探検隊で今回私たちが企画したのは、「多摩で味わう!至福のとき時間」。朝食を食べない若者たちに、朝食のすばらしさと大切さを見直してもらいたい、そんな思いからこの企画は生まれた。至福の朝食(=産みたての卵を使った卵かけご飯)を求めてレポーターが卵を産む鶏を飼う家を探し出し、毎朝卵が生まれるのをひたすら待つ、シンプルな内容だ。卵一つのために毎朝早起きし、鶏小屋に通う。忍耐の末に待っているのは「珠玉の卵かけご飯」である。バカバカしいといえばバカバカしい。学生の今しかできない、勢いと体力で作った番組である。
今回の番組は、3人のチームで制作した。朝8時に民家の鶏小屋の前に集合。10時ごろまで撮影、その後学校で編集。その合間に授業に出たり、バイトに出掛けたりする。残った人は23時に学校が閉まるまで編集を続ける。その後、遅めの夕食をとって解散。こんな生活を2ヶ月間、来る日も来る日も続ける。3人とも4年生で授業時間が少なかったため、起きている時間のほとんどを番組制作にかけ、夢の中にまで烏骨鶏が出てきてしまうほど、全身全霊をかけて制作した。
番組制作は、本当に骨の折れる作業である。だが、楽しくて仕方がない。企画・構成・取材・撮影・編集…。そのどれも手を抜けないし、一つ一つを積み上げることによって番組になる喜びは、何ものにも代えがたい。時には制作チームで意見が合わず喧嘩したり、朝から晩までカメラとパソコンに囲まれストレスに苛まれたりする。体を酷使し、泣きながら編集することもしばしばだ。それでも制作をやめないのは、企画を実現させたいという強い思いと、共に目標に向かって走れる仲間の存在、そして私たちに与えられた多摩探検隊というまたとない機会のためだろう。
多摩探検隊は、たった10分の、いってしまえば素人番組であるが、その奥には制作者の葛藤と強い思いが隠れている。何もないところから一つのものを作り上げる。今回この番組を制作することで、私は“産みの苦しみ”というものをはじめて味わった。私にとっての番組とは、子どものようなものだと思う。手塩にかけて産み育てた子どもが、一つの番組として放送される喜びは、ひとしおだ。
今日、「放送と通信の融合」という言葉が巷を賑わしている。私は多摩探検隊を制作することで、映像制作にはとてつもない苦労を要するということを知った。たった数秒のカットに何時間も費やしたり、何度も撮りなおしたものを結局使えなかったり、ちょっとしたテロップの入りや音の大きさでも随分苦労するものだ。映像を配信する媒体が多様化しても、この制作者の苦労と葛藤に変化はない。
ITの進歩によって映像コンテンツを取り巻く環境は大きく変化し続ける。それでも、「いいモノを作りたい」。そう思う作り手の魂だけは、いつまでも変わらない。朝日を浴びた鶏小屋の中、カメラを構えながら私は強くそう思った。

投稿者 webmaster : 2006年01月01日 12:00|

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