酒造を取材して思うこと(2005年07月02日)

狩野 智彦 (カノウ トモヒコ)
総合政策学部国際政策文化学科
第15回「シリーズ多摩の酒造② 石川酒造」ディレクター

多摩の恵「よし、飲みに行こうか」と誘われるようになったのは、大学生になってからだと思う。誕生日などのお祝いや、悩み相談、親睦を深めるといったように、何かにつけて酒を口にするようになった。不思議なもので、人は杯を交わすと普段は閉ざしている心のドアを開いたり、いつになく真剣な眼差しと姿勢で人の話に耳を傾けたりするようになる。アルコールのせいだと言われればそれまでだが、そんな理屈っぽいことは抜きにしたい。「酒は憂いの玉箒」なのである。しかし、当然大学生らしく無茶な飲み方をして、人様のお世話になったことがしばしばあった。ただ、同じように今まで多くの友人の背中もさすってきた。お世話になった回数と、背中をさすった回数を合わせると、ちょうど入学してからできた友人の数くらいになるだろう。酒は、私とかけがいのない友人とをめぐり合わせてくれた。

そんな酒好きが興じてか、「多摩探検隊」で福生市にある石川酒造株式会社を取材した。「シリーズ多摩の酒蔵」というコーナーの第二弾である。石川酒造は1863年(文久3年)に創業し、明治時代に建てられた五棟の蔵をもつ。それぞれの蔵では、銘酒「多摩自慢」と東京地ビール「多摩の恵」が製造されている。そう、東京にも地ビールはしっかりあるのだ。その味は日本地ビールコンテストで優勝するほど。「多摩の恵」の美味しさの秘訣は仕込み水と良質な麦芽にある。前者は秩父に発する酒造りに最適な天然地下水を使っているので、当然麦酒も美味しくなる。一方後者は、世界各国から取り寄せた最高級の麦芽。この二つが合わさったとき、多摩の恵は「美味しさ」という最高の味わいを披露するのだ。試飲する際、「取材のため取材のため…」と言いつつ、試飲の杯に数回手を伸ばす私がいたのは言うまでもない。「これが取材の醍醐味なのか・・・」と思い、私は独り静かに頬を緩めた。

酒蔵を取材そして、ふと思ったのである。多摩探検隊で私たち学生が行っている「取材」は、新聞やテレビなどの社会人が行う「取材」と同じなのだ、と。取材対象への密着度や規模、日数に違いはあるものの、その本質は恐らく違わない。取材先に連絡し、交渉して取材の約束を交わし、その交渉の仕方が悪ければ、当然断られるからだ。ならば取材では、私たちは単なる「学生」としてではなく、一人の「社会人」として見なされているのではないか。私たちの活動するフィールドは「教室」ではなく、「社会」なのだ。そう思い、ビール片手に頬は幾分緩めながら、だから余計に気を引き締めるのだった。

先日、ある居酒屋のメニューに取材でめぐり合った「多摩の恵」を見つけた。早速取材して分かった、この地ビールの薀蓄を横にいた友人に傾け、勧めた。注文を受けて地ビールを運んできた店員さんが去り際にこう言った。「確かこのビール、多摩なんとかっていう番組に出てましたよね、ほら、ケーブルテレビの・・・」。こうして、「多摩探検隊」のことを「社会」で耳にすることが番組制作の褒美であり、制作冥利に尽きるな、と思う。

酒造を訪ねて、私は取材の醍醐味と自分の立つフィールドを自覚し、そしてわずかながらの感嘆を得ることが出来た。これこそ、「酒は天の美禄」と言えるのではないだろうか。

投稿者 webmaster : 2005年07月02日 12:00|

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